アルコールによる違法行為での保護観察期間中や保釈中に、足首に「アルコール検知器」を装着させられている人が大勢いるアメリカ。ここでは近い将来、国民の体の中に埋め込むタイプのチップで個人のIDを管理する時代がやってくるかもしれないという。
刑務所での長い務めを終えた際、刑務官から「今後あなたがどこに出かけ、誰に近づこうともすべて把握しています」などと告げられて出所するとあれば、人は確かに再びの犯行を思いとどまるであろう。米メディアの『Fox News』が、このほど興味深い話題を紹介した。“いずれすべての国民の体にチップが埋め込まれ、それによって管理される世の中になるかもしれない”というのだ。
柵から逃げ出さないよう、個体のデータ管理を兼ねて飼育動物にチップを埋め込んでいる牧場も増えているこの時代。人間に適用する場合も原理は同じである。超小型のRFタグを体に埋め込み、これに近距離のリーダ/ライタから電磁波(電波)信号を送るRFID(Radio-frequency identification)というシステムを利用することで、データを読み込む、あるいは最新情報を上書きすることになる。
もちろん、大変なプライバシーの侵害だと訴える声があがるのは必至だ。だが、スタンフォード大学が提唱する世界平和のための「Peace Innovation」に参加し、常に人と最新テクノロジーの融合を謳ってきた科学社会学博士のAlex Soojung-Kim Pang氏は、それを承知の上でなおメリットは多いとみている。空港、試合・コンサート会場でのセキュリティチェックは非常に迅速なものになり、徘徊する認知症患者の発見、誘拐・失踪事件の早期解決が可能で、警察の捜査にも威力を発揮するため犯罪自体が起きにくい社会になるというのだ。刑務所から出所した者、家族や恋人へのストーカーやDV行為などで接近禁止命令を受けている者の居場所が常に追跡されていると思えば、社会的にはむしろ安心かもしれない。
50年前まで2億人に満たなかった人口が、英語を母国語としない人々も次々と流入し、現在は3.1億人までに膨れ上がってしまった巨大国家アメリカ。国民をコンピュータで管理するという発想はますます幅をきかせるようになっている。ただしどれほど緻密なシステムが完成しても、データを入力、操作する側に一瞬の人為的ミスがあれば、容易にその個人に対する誤認が起こり得る。ハッカーらもデータへの不正侵入を試みるに違いない。この計画が「将来的に」という表現の域を超えることは、そう簡単ではないであろう。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)