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【名画クロニクル】高峰秀子追悼 心あたたまる夫婦ドラマ 木下恵介監督「喜びも悲しみも幾歳月」

2010年末に、日本を代表する名女優、高峰秀子の訃報が伝えられた。
昭和映画史に燦然と輝く巨星がまた一人鬼籍に入ってしまうのは寂しいことである。そこで高峰秀子の代表作と言うことで、多くの主演作品の中から、木下恵介監督「喜びも悲しみも幾歳月」を紹介してみたい。

高峰秀子主演による木下恵介監督作品は、1951年の「カルメン故郷に帰る」、1954年の「二十四の瞳」そして1957年の「喜びも悲しみも幾歳月」が三大名作と言えるだろう。

どの作品も、基本的には「悪人」は登場せず、娯楽作品ではあるが変に観衆に媚びたりせず、それでいて芸術や様式美といった高尚なものを追求するでもない。安心して見ていられるのだ。

そして、見終わった後味がさわやかなのも印象がよい。

「喜びも悲しみも幾歳月」は、灯台守として全国各地の灯台を転々とする、いわゆる転勤族夫婦の苦労物語である。

転勤族の苦労というのは、そうでない人から見れば想像を絶する過酷なものである。

やっとその土地に馴染んで、顔見知りもできたころに転勤となり、別れを告げながら新しい土地に馴染まなければならない。

夫は、仕事を中心に生きているから、転勤をそれほど特別なことだとは思わないが、支える妻のほうは大変である。

もちろん、夫婦げんかだってするし、愚痴も言う。それでも支え合って生きている夫婦の姿が健気である。

年代的には、昭和初期から昭和30年代までという、いわば昭和前史を回顧するような構成になっているとともに、全国各地の灯台でロケを敢行したロードムービーという一面もある。

なにより、「ゲゲゲの女房」ブームで、夫を支える妻の姿が見直されている現在、「喜びも悲しみも幾歳月」における高峰秀子演ずる妻の健気さは、若い世代にも共感を得るのではないだろうか。

ラストシーンで、娘が嫁いだ先の夫の海外赴任により外国へ向かう船に向かって、灯台の灯りをともして見送る姿は、さわやかな感動を呼ぶことは間違いないだろう。

なお、高峰秀子の作品として見た場合、どこか物足りないというイメージはつきまとうかもしれない。

高峰秀子独特の台詞回しと魅力ある”不機嫌顔”があまり見られないからだが、そうした点を考慮しても、21世紀に改めて見直したい夫婦のドラマとしてぜひご覧いただきたい作品である。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)