writer : techinsight

【名画クロニクル】マジメな人の持ついかがわしさ ビートたけし原作 天間敏広監督「教祖誕生」

架空の宗教団体を巡る人間模様を描いたビートたけし原作の同名小説を1993年に天間敏広監督が映画化。
VHSビデオは発売されたものの、テーマが宗教団体になっているせいか、長らくDVD化はされていなかった。
しかし、現代社会を考える上で大変参考になるというか、目からウロコが落ちる映画として、今回紹介してみたい。

一人旅をしていた青年・高山和夫(萩原聖人)は、霊感療法のデモンストレーションをやっていた宗教団体に出会う。

実は、この霊感療法はサクラ役の老婆がやっていたヤラセであり、件の老婆は教団といっしょにバスで方々を旅している。

しかし、教団幹部の司馬(ビートたけし)は、「あの婆さんは昔、本当に教祖に治してもらったことがあるんで、今協力してもらっているんだ」と、高山を諭す。

教祖は、どこかで連れてきたホームレスの爺さんなのだが、そのうちだんだんその気になってきて、助かる見込みのない患者にまで無理矢理霊感療法をやって、死なせてしまったりするので、そのうち教団を追い払われてしまう。

二代目教祖に祭り上げられた高山が、山にこもって断食修行しているのを見て、たけしが一言「山にこもって神様になれるんだったら、山で遭難した人はみんな神様だぞ」などと、実に当たり前のことをあっさり言ってのけてしまう。

この映画を見て思うのは、宗教であれ、政治や社会運動であれ、立派なことをやっているという人は、どこかいかがわしいということである。

むしろ、所詮はサービス業だと割り切って、もらうもの(金)はちゃんともらって、合理的に運営している人のほうが、マトモであり、お客様(信者など)へのサービスもきちんとしているという事実が描かれる。

映画では、心から信じて、ピュアな心で教団のために働いている男(玉置浩二)が登場するが、教団が原価500円の観音像を桐箱に入れて50000円で売ろうとしているのを見て、その金もうけ体質を責める。

しかし、たけしから「50000円で買いたいという人がわんさかいるんだから、50000円で何が悪い」と窘められる。

そして、ついに破滅の時がやってくるのだが・・・・・・。

宗教者やボランティア団体は清貧でなければならないとか、指導者は立派な人間でなければならないというのは、普段は拝金主義に傾きがちな縁なき衆生の一方的な願望投影にすぎないということが、まざまざと描かれるさまは痛快である。

長らくDVD化がされていなかった本作は、2011年2月25日に待望のHDリマスターDVDが発売されることとなった。

巨匠監督となった北野武(ビートたけし)の原作映画ということで、北野作品のひとつとしても大変面白い作品である。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)