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【名画クロニクル】アメリカ社会のもうひとつの顔が分かる 「ジーザス・キャンプ」

アメリカという国の建国の基が聖書にあることは意外と知られていない。欧州での迫害から逃れ自由と平等を求めて新大陸へ渡った清教徒「ピルグリム・ファーザーズ」がアメリカ建国の父であるとされる。
よって、しばしば聖書=キリスト教信仰と愛国心がセットになりやすい。この映画はアメリカのキリスト教徒の中でも、特に超保守的な価値観を持つ一派の実態を描いたドキュメンタリー映画である。

原理主義というと、多くはイスラム原理主義者のテロ行為ばかりが強調されやすいが、どんな思想や宗教にも「原理主義」は存在する。

この映画は、いわゆる「キリスト教原理主義」という非常に堅苦しい一派が主催するキャンプ(「錬成会」のようなもの)の様子を描いている。

思想信条は、それぞれ自由だが、特徴的なことがいくつか見て取れる。

まず、アメリカ人に対しては、「進化論」と「妊娠中絶」の話をうかつにしてはいけないということだ。

日本では、「進化論」はなんとなく信じられているし、「妊娠中絶」も法の範囲内で容認されているが、この常識はアメリカでは通用しない。

「進化論」は、聖書の創世記に反し、「妊娠中絶」はモーセの十戒に反するという理由で、キリスト教原理主義の一派から激しい攻撃を受けることは間違いないからだ。

宗教上の理由だけならば、それはそれとしてスルーしておけるのだが、アメリカの場合は、宗教上の原理主義と政治的なネオコン(新保守主義)との関係が緊密なので、しばしば政治信念の話に直結してしまうことになる。

また、自分たちに反対する勢力に対しては、すべて「サタン」(悪魔)というレッテルを貼るのも、大きな特徴である。

本映画でも、しばしばサタンについての言及が見られるが、これは日本人にはなかなか理解困難なことであろう。彼らに「サタン」というレッテルを貼られたら、いかなる対話も成立しないのである。

決して娯楽的な映画ではないし、むしろ猟奇映画の一種として見れるくらいなのだが、日本でも最近は描くこと自体が「タブー」とされてきたジャンルのドキュメンタリー作品が出てきているので、そうしたジャンルの作品が好きな人には、楽しめる内容となっている。

本作は、2010年12月25日から「未公開映画祭」として日本で順次公開が予定されている。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)