「結婚式で7ヤード(約6.4メートル)のヴァージンロードを歩くこと」だった。式は卒業から3年後の2018年4月21日にフロリダ州で行われたが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。クリスさんの卒業を見届けたエミリーさんはその後、うつ状態に陥り、怒りをコントロールすることができなくなってしまったのだ。クリスさんは「7ヤードを歩くことよりも、結婚式までの日々が一番辛かった。自分をギリギリまで追い詰めたリハビリも、エミリーとの関係においても、くじけそうになったことが何度もある。でも教会に通い、たくさんの人々からサポートを受け、なんとか立ち直ることができたんだ」と明かしており、紆余曲折を乗り越えて結婚した2人の表情は実に晴れやかで美しかった。クリスさんはこの時もエミリーさんに支えられ、今までで一番長い7ヤードを歩き切った。ちなみにこの時の2人の姿は、夫妻の共著で今年7月9日に出版された『The Seven Longest Yards』の表紙になっている。
普段の移動には車椅子を使用しているクリスさんだが、普通の人と同じように歩けるようになるまでにはまだまだリハビリが欠かせない。それにもかかわらず、夫妻はこれまでに17人の子供たちを里子として迎え入れてきた。「支えられてばかりではなく、自分たちも人に何かを与えられる存在になりたい」―そんな気持ちがあってのことだった。しかし里子に迎えた子供たちが家を離れるたび、寂しさと罪悪感に襲われた。そして昨年12月、2人はある決意をした。最初に里子として受け入れたウィットリーさん(20)を家族の一員として迎えたのだ。2か月後、さらに夫妻は10歳、8歳、6歳、3歳の血の繋がった4姉妹を養子として迎え入れた。
エミリーさんは「彼女たちは永遠に私たちの娘になりました。良い時も悪い時も子供たちがそばにいてくれることは、私にとってこの上ない喜びです。私たちが子供たちに恩恵を与えているのではなく、子供たちが私たちに恩恵を与えてくれるのです」と語り、大家族になったことを心から喜んでいる。一方でクリスさんは「父親になったら一緒にキャッチボールをするとか、プールで遊びたいとか、そんなことを漠然と考えていましたが、今の自分にはそれができません。身体は麻痺しても心が麻痺することがないように、『父親として今の自分に何ができるのか』を常に模索しています」と述べている。
事故からもうすぐ9年が経つが、クリスさんは「エミリーがいたから自分も変わることができたのです。エミリーこそ私の最愛の人、生涯の伴侶だと思っています」とエミリーさんへのまっすぐな愛を口にする。人を愛し、人に愛されているからこそクリスさんは強いのであろう。これまでに自分の事故やリハビリの様子を綴った本を2冊出版し、映画の制作も手掛けている。現在はアメリカ国内を飛び回り講演を行っているほか、「クリス・ノートン基金(CHRIS NORTON FOUNDATION)」を立ち上げ、脊髄損傷の人々をサポートする活動を行っている。
“たった3%”にかけたクリスさんの熱意は、一歩が二歩になり、二歩が三歩となり、97%の不可能を可能にしてみせた。「歩くことだけがゴールではない。必要なのは自分を信じて、立ち上がることだ。チャレンジすることで、世界を変えることができるんだ」―クリスさんの言葉が胸に刺さる。
画像は『Inside Edition 2019年7月11日付Twitter「Chris Norton, the paralyzed groom who went viral after miraculously walked down the aisle at his wedding, has now adopted five girls with his wife and is writing a memoir, “The Seven Longest Yards.”」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)