それは恐れられている「人食いバクテリア」は、感染したら時間との勝負とも言われる。劇症型溶血性レンサ球菌やビブリオ・バルニフィカス感染症の発症例が報じられることは多いが、皮膚に深刻な潰瘍をもたらす「ブルーリ潰瘍(Buruli ulcer)」という感染症をご存じであろうか。その発症者がオーストラリアではここ3年間で倍増し、特にヴィクトリア、クイーンズランド両州での流行が懸念されているという。日本でもお笑い芸人の出川哲朗がこの「ブルーリ潰瘍」への感染を恐れて「鼻ザリガニ」を封印している。
皮膚が壊死して大きくえぐれる潰瘍症状を呈する患者がアフリカ・ウガンダのブルーリ地方で多発したことから、その名が付けられたという「ブルーリ潰瘍」。オーストラリアでは「バーンズデール潰瘍(Bairnsdale ulcer)」とも呼ばれるこの皮膚病については年間約5,000人かそれ以上の新しい患者が出ており、世界保健機関(WHO)は「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases: NTD)」のひとつと表現している。
多数が上肢や下肢に、そして少数が顔面において潰瘍となって発症するが、末梢神経にダメージを与えた場合は見た目ほどの痛みを感じさせず、熱もなく命を落とす危険はそう高くないというブルーリ潰瘍。しかし深い潰瘍が大きく皮膚をえぐることから二次感染に気を付けることはもちろん、抗菌薬(抗生物質)による治療が遅れれば、骨や関節にトラブルが生じたり皮膚に醜い瘢痕を残すことがある。植皮が検討されることもあるほか、壊死が進む場合には切断も選択されるという。
左足にその潰瘍ができてしまったというジャン・スミスさんは豪メディア『theage.com.au』に、「潰瘍がどんどん大きくなって体液や血液がにじみ出てくるため、まるで赤い靴下を履いているかのようでした。痛くて眠れず、主人は『君の骨が見えて思わず吐き気を催してしまった』などと言っていました」と話す。また感染症が専門のポール・ジョンソン医学博士は『news.co.au』にこのように語っている。
「最初はただ蚊に刺されただけに見え、それが小さな火山のようになり“噴火”が始まるとみるみる潰瘍が広がっていきます。中には刺されて約4か月後に肘、背中、ふくらはぎ、足首などでそれが噴火する例もあるようです。」
「オーストラリアにおいては、小~中型の樹上動物“ポッサム”が菌を保有し、蚊が媒介となってヒトに感染させると考えられていますが、まだまだ不明な点が多いため早急な調査が必要となります。むしろポッサムもヒトと同じように被害者なのかもしれません。」
1980年以降、年間にたった数名だが日本でも毎年必ず患者が出ているブルーリ潰瘍。今年春にはあるバラエティ番組で、この感染症を恐れるあまりお笑い芸人・出川哲朗の「鼻ザリガニ」に禁止令が出された。事実、オーストラリアばかりかナイジェリア、マリほかアフリカ西部の国々でも続々と患者が増えている。ジカ熱がそうであったように、性行為などを通じてヒトからヒトに感染する可能性についても調査が必要かもしれない。
現在わかっている原因菌は、土や水の中にいる“M.ulcerans”または“M. ulcerans subsp. Shinshuense”という2種類の抗酸菌。これらの至適温度は25℃以上、特に30~33℃でよく増殖し、「マイコラクトン(mycolactone)」という毒素を産生する。川辺、池、沼など湿地帯での感染例が多いため、この時期そうした場所にお出かけの方にはこんな感染症もあることを是非覚えておいていただきたい。
出典:http://www.mirror.co.uk
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)