英バーミンガムの大病院では今、薬物起因性あるいは院内感染性の「クロストリジウム・ディフィシル誘発性大腸炎」に対する新しい治療法の試みが行われている。コーヒーのようにも見えるその黒褐色の液体の正体とは…!?
英ウエスト・ミッドランズの「バーミンガム大学ハートランド・ホスピタル」にあるイングランド公衆衛生サービス(Public Health England)の研究室では今、免疫学および感染症が専門のピーター・ホーキー博士の指導のもと、院内感染菌のひとつとしても恐れられているクロストリジウム・ディフィシルについて画期的な治療方法が試されている。
クロストリジウム・ディフィシルはグラム陽性嫌気性桿菌で、健康な成人で5~10%、入院患者で約25%が消化器官や糞便中にそのバクテリアを持つと言われている。普段は悪さをしないが、抗菌薬の投与などで腸内フローラが乱れると発熱、激しい下痢、血便といった偽膜性腸炎を呈するようになる。患者は多くが65歳以上で、原因となった薬剤の服用を中止しても自然治癒せず、薬物治療も効果をみせない約3分の1は死亡してしまう。ホーキー博士は今、その重症例の命を救う“最後の頼みの綱”となる治療方法を確立しようと懸命だ。
ホーキー博士が患者の目の前に用意するのはコーヒー様の液体。その期待される成分は他人の腸管に存在する、つまり大便から分離された“フェカリス菌”だそうだ。5日間にわたるスクリーニング検査で大便を提供するボランティアが選定され、サンプルは無害化および液体化の処理がなされるとマイナス80度の超低温にて保存される。患者の体内には経鼻内視鏡の要領で50mlが流し込まれるが、24時間も経過すると90%の患者が立って歩けるほどの回復を自覚するという。
フェカリス菌といえば乳酸菌に詳しい人ならピンとくるものである。腸内環境を整え、免疫力をアップさせる効果が謳われて久しいほか、近年では花粉症の克服に一役買うなどとも指摘されている。再び大注目になりそうなフェカリス菌だが、ホーキー博士によれば、他人の大便に含まれる菌により大腸炎を劇的に改善させるという方法は、数千年前の中国人が試みていたとのデータがあるそうだ。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)