イラクでも活躍した元兵士で現在は俳優としても活躍しているJ.R.マルティネス（28）が、アメリカで大人気のダンスコンテスト番組『Dancing with the Stars』で見事なダンスを披露した。観客らは彼とパートナーの見事なルンバに息をのみ、マルティネス本人はもちろんのこと観客の多くも感動の涙を流した。

ABCの人気番組『All My Children』にも出演し人気者となった俳優J.R.マルティネスは、異色の経歴の持ち主である。まだわずか28歳というマルティネスは元兵士。2003年にはイラクに赴任していたが、そのときに運転していた軍用車両が不幸にも地雷の真上を通過。結果、全身の40パーセント以上に重度のヤケドを負うという悲劇に見舞われてしまった。一命はとりとめたものの、治療にはまさに3年近くもの月日がかかり、彼は30回以上にもわたって皮膚移植や美容整形手術を受けるという苦難の日々を経験している。

回復した彼は、全米の企業や学校を訪問し自身の経験について講演した。だが体力は戻ったものの、彼の体には一瞬驚くほどのケロイドが残ったまま。しかしこのケロイドは、彼が俳優としての道を進むきっかけにもなっている。彼は『All My Children』という人気ドラマで役を得たが、このキャラクターもまたイラクに赴任し負傷したという設定。まさに大怪我がきっかけとなりセレブの仲間入りをした彼であるが、数々の講演などを通し全米に勇気と感動を与えたその経歴は数々のテレビや雑誌で特集として紹介されてきた。

その彼が、見事なダンスを披露した。曲は『If You’re Reading This』。夫たちが戦地から帰ってこないことを手紙で知らされる妻たちについての曲といい、ダンスが始まる前から感極まっていたマルティネスは思わず涙で喉がつまったそうだ。またダンスパートナーであるカリーナ・スミノフもまた思わず涙が出て前が見えなかったというが、感動したのは本人たちだけではない。観客の中にはマルティネスのゲストとしてまだ10代の女の子もいたが、彼女はわずか3歳のときに温水暖房機の事故により全身の95パーセント以上にヤケドを負っている。そんな彼女たちが見守るなか見事なダンスを披露したマルティネスは涙を流し体を震わせたが、そんな彼の姿に、観客の多くも涙し惜しみない拍手と喝采を送った。

たかがTV番組と言われればそれまでであるが、この人気番組は性転換により男性となったチャズ・ボノをコンテスタントに選ぶなどし、社会全体に対し大きな問題を提起しているといっても過言ではない。様々なコンテスタントの中にはチャズやマルティネスのように壮絶な経歴を持つものもいるが、そんな彼らが舞台に立ち懸命に踊る姿は美しい。誰もがスターになるチャンスを持ち、誰もが自由に自分らしく生きることができる。今シーズンのテーマは、我々が知っているはずなのに容認できないことを、そっと優しく教えてくれているようだ。
（TechinsightJapan編集部 ケイ小原）