writer : techinsight

それでもまだ紙にこだわる? iPad絵本がママ・パパに支持される5つの理由

先月、Apple Store銀座店で絵本の読み聞かせ会が行われた。夏休みに買い物散策する親子連れを狙ったものだが、手に取る子どもたち、そして親たちの反応は上々のようだった。ただ一方では「絵本の電子書籍化なんて」と抵抗を持つ人も多い。今後、iPad絵本は普及するのか。

「絵本・新聞は紙媒体、それ以外は電子書籍で」…こんな調査結果が、昨秋に発表された。アスキー総研と学芸大などが共同で行った「子ども電子書籍調査」によると、「子どもが電子書籍を利用している」または「したことがある」と答えた親は全体のわずか1.2%であったが、これに対して子どもは全体の12.8%が「利用したことがある」と回答し、親子間で認識に開きがあることが分かった。そして、マンガや一般書籍などで「紙媒体より電子書籍で読みたい」という意見が多勢を占めたが、絵本と新聞では「紙媒体で読みたい」という回答が電子書籍を上回った。

親は子どもの電子書籍の利用についてどう考えているのか。調査結果では賛成が38.1%、反対が23.8%で賛成が上回ったものの、「目に悪い、疲れる」といった回答や、低学年では持ちにくいのではという指摘もあり、まだまだ否定的な見方が少なくない。(※)

実際のところ、iPad絵本はどのくらい普及しているのか。絵本作家・かさいまり氏のベストセラー『あんなになかよしだったのに…』(株式会社チャイルド本社)電子版の製作担当者によると、絵本のアプリ自体は急増しており、それに伴って利用者も徐々に増えているという。実際にiTunesのトップページにはキッズアプリのバナーが貼られ、そこで「絵本」と検索すると溢れんばかりの電子書籍がヒットする。

冒頭に紹介した調査は昨年10月に行われたものであるから、その半年後にiPad2が発売されたことも考えると、やはりiPad絵本は今後子どもを持つ親の必須アイテムとして定着していきそうだ。

では、iPad絵本にはどのような特長があるのか。前出の『あんなになかよしだったのに…』を取り上げながら、考察してみたい。

■「触れられる」ことが最大のメリット
まず、iPad絵本の最大の魅力は「触れられること」だという。画面をタッチすることで、ページをめくるだけでなく、登場人物に触れたり背景にクローズアップしたりできるのだ。ストーリーはもちろん、絵本の世界に文字通り触れ、子どもの感受性を高めることができるのがiPadならではの特長だ。また、お好みでBGMを流しながら読むこともできるようになっている。

■絵本の良さはそのまま残しつつ…
iPadの絵本というと、絵本のようなページをめくる重みや期待感がなくなってしまうことを懸念する人もいるだろう。しかし、iPad版『あんなになかよしだったのに…』は著者との入念な打ち合わせのもと、製作に9ヶ月を要し、ページをめくる際の間合いを忠実に再現している。前出の製作担当者は「絵本を親が読み聞かせる時には、ページをめくる時の間合いこそが大事で、ページとページの間のストーリーがある。それはiPadになっても失いたくなかった」と話す。

絵本モードではページをめくって楽しめる

■縦に横に…iPadなら映像つきで1作を2度楽しめる!
やはりただの電子書籍ならば絵本に太刀打ちできない。iPad絵本の特長は、作品を映像で観ることもできるということだ。操作は簡単で、通常は横向きで読むiPadを縦向きにするだけ。すると、同じ作品のアニメーション動画を視聴することができるのだ。『あんなになかよしだったのに…』では、著者の監修のもと、シアターキューブリック所属の女優・漢那悦子さんがナレーションを務め、温かい声で絵本の世界観を再現している。

ムービー・モードではナレーションが読み聞かせのように、音楽とともに入っている。

■不朽の名作が手軽に、安価で手に入る
iPad版『あんなになかよしだったのに…』はiPad専用アプリケーションとしてApp Storeにて税込み1000円で購入できる。従来の絵本の場合は税込み1260円なので、紙媒体よりも安い値段で手に入ることになる。尚、全国学校図書館協議会選定図書、日本図書館協会選定図書にもなっている絵本の電子化は珍しいという。

■いつでもどこでも読み聞かせできる
iPad絵本なら、カバンに入れて手軽に持ち運べるので、病院などの待合室や長距離の移動の際にも、すぐに取り出して読み聞かせをすることができる。電子書籍という性質上、何冊でも持ち運べるので、「読みたい本が手元にない!」という心配もなくなる。これにより、子どもと絵本との距離がますます縮まることが期待される。

このようにiPad絵本には様々な特性があるが、「決して絵本に取って代わるものではないのです」と前述の製作担当者は念を押す。あくまで絵本という紙媒体に触れる楽しみは一方であって、iPad絵本はそれとはまた違ったアプローチからの楽しみを提供していきたいという。確かに、今回の取材を通して記者は、iPad絵本はテレビアニメと絵本のいいとこ取り、という印象を持った。まずiPad上でたくさんの絵本に触れ、その中から特に気に入った一冊を紙の絵本でプレゼントしてあげるのもよいだろう。

今回ご紹介したかさいまり氏のベストセラー『あんなになかよしだったのに…』は、必ずしもハッピーエンドで終わるのではなく、「人を傷つけること」「言葉の大切さ」など、読後に考えさせられる深いテーマが込められており、親子で楽しめる作品だ。今後もかさいまり氏の著作は、iPad絵本として製作・販売されていく予定である。
『あんなになかよしだったのに…』(http://itunes.apple.com/jp/app/id449497235?mt=8)
※ 「子ども電子書籍調査」を参照 http://asciimw.jp/info/release/pdf/20101022.pdf
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)