東北関東大震災を米ニュースメディアはどう見たか? 彼らがまず驚いたことは、非常時下にもかかわらず略奪や暴動が見られず、日本人が秩序を持って耐える姿であった。震災発生後1週間にわたって米メディアが目撃した「日本人のレジリアンス(困難な状況に耐え回復する力)」をまとめた。
はっきり言おう。日本はアメリカの主要ニュースメディアにとって近年、「忘れ去られた国」だった。その理由の一つは、彼らが軍事と経済で着々と力をつけるアジアの隣国、中国についての報道に力を注ぎはじめ、それと反比例するように、ニュース性のない日本の存在感が徐々に薄れていったからだった。
しかしここにきて、この未曾有の大災害の発生。近年、日本への駐在体制を薄めにしていた米ニュースメディアでは、慌てて日本の被災地に取材チームを送り込んだが、彼らのTV中継がつながり現地発のリポートが伝えられるまでは、米国民達は日本の惨状について詳しく知り得なかった。米TV局側は、自前の取材チームが日本に着くまでの移動時間、日本のTV局の映像を流し、日本国内にいる米国人とスカイプでつなぎ状況を聞いたりして、何とか話題を持たせた。何しろ、米国内での日本についての「知りたい度」が0.1から200%に急激に上がったようなもの。米メディアは、しばらく忘れていた同盟国、日本がどんな国だったか思い出そうと、必死に頑張った。
そして、その後現地に入ったスター記者やアンカー達が伝える惨状に驚きながらも、米メディアはあることに気がついた。彼らの間で思い浮かぶ近年の大災害といえば、ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナと、ハイチやチリの大地震だ。あの混乱下で見られた物資の略奪、無秩序や暴動が、どうやら震災直後の日本では見られない。それどころか、人々は物資の少なくなったスーパーに列を作って並び、少なくなった食料を避難所で分け合って生き延びているというではないか。
この日本人の「レジリアンス(困難な状況に耐え回復する力)」について、賞賛と分析の口火を切ったのはニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストで、東京支局長を務めたこともあるニコラス・クリストフ氏だった。地震発生直後の11日、「日本への同情、そして賞賛」と題したコラムの中で、「文句を言わずに、集団で耐える力は日本人の魂の中に浸透している。」「日本人の地震への対応から米国が学べることは多い。」と書いた。日本人のストイックな精神は「仕方がない」といった日本語のフレーズにも根付いており、それは島国ゆえ自然災害が避けられない「運命」なので、それを受け入れ淡々と復興するのが日本人の常なのだと説明した。
ABCニュースの看板アンカー、ダイアン・ソイヤー氏は14日、ニュース番組『ABCワールド・ニュース』を宮城県仙台市から生中継したが(写真)、日本の被災者について「辛抱の名人級」と讃えた。ガソリンを買うために数百台もの車列が整然と待つ風景、食料を買うため3時間も子供を腕に抱え並ぶ若い母親、避難所ではリサイクルまで行う。「神道、仏教と儒教の教えに基づくもの」だと説明するが、「略奪は一度たりとも見なかった」と感嘆。また、地震で落ちた天井を被災者が一丸となって持ち上げるビデオを紹介し、「一体」という日本語の単語の意味を説明。この「一体」感が、日本のレジリアンスの秘訣なのだと説明した。
また、CNNのコメンテーター、ジャック・カファティ氏は「なぜ大震災下の日本で略奪が起きないのか?」を視聴者に問いかけ、集まった答えの抜粋を番組内で紹介した。「日本の国民的誇りだから」という答えが多くから聞かれたほか、「日本人は高度に進化した人種だから」という人もいた。全米公共ラジオ局のNPRでも、ベテラン記者のロブ・ギフォード氏が岩手県陸前高田市の避難所からリポートしたが、津波で家が完全に流された女性がリサイクルする姿や、生徒の多くが行方不明だという先生が「取材してくれてありがとう」と言う姿に「レジリアンスと尊厳を感じる」とリポートした。
大震災がなければ「日本のレジリアンス」が話題になることはなく、米メディアはまったく皮肉な形で、忘れてかけていた日本を再発見したことになる。
画像=Screenshot from http://abcnews.go.com/WN/
(TechinsightJapan編集部 ブローン菜美)