(ジャンル:ジャズ)
昔、音楽の記録メディアにLPレコードというものがあって、そこではA面/B面という区分けが存在した。つまり現在CDで6曲入っているとしたら、片方の面には3曲しか入っておらず、残り3曲を聴くときには盤面をひっくりかえして聴いていたのである。
A面とB面でイメージが違うという時代に、ひときわB面が愛されたジャズアルバムがいくつかある。そのひとつがドナルド・バードの「フュエゴ」である。
ドナルド・バードは、ジャズ史に燦然と輝く名盤を残したというわけでもなく、トランペッターとしても、特に際立ったスタイリストというわけでもない。
本作においても、パッと聴いた印象では、リーダーのドナルド・バードよりも、サイドメンであるジャッキー・マクリーンのほうが目立っている曲もあって、ますます地味な印象を持ってしまう。
しかし、彼の素朴で歌ごころのある演奏に、ブルーノートレーベル独特のサウンドエンジニアリングが相乗して、多くのジャズファンに愛されている。
さて、「B面名盤」のゆえんであるが、楽曲のチャーミングさにおいて、B面つまり後半3曲の「ロウ・ライフ」「ラメント」「エイメン」が実に光っているのである。
A面つまり前半3曲も良い曲なのだが、1曲目の「フュエゴ」は、なかなか壮大なテーマの提示に続いてバードが吹くソロが今ひとつアイディア不足な上に、フェードアウトしてしまったり、3曲目の「ファンキー・ママ」は、やや冗長なスロー・ブルースで、先発ソロのマクリーンが光りすぎというジレンマがあったり、いまひとつハートに来ない印象だ。
それに較べて、B面1曲目(4曲目)の「ロウ・ライフ」は、これこそジャズの愉しみの神髄といった魅力的なテーマで始まる。
ダブルテーマ(イントロとメインテーマ)で始まり、締めはその逆、つまりメインテーマのあとに最初のイントロをアウトロとして披露するアーチ構造なのもカッコイイ。
先発ソロはマクリーンで、ブルージーにキメたあと、バードがそのムードを受けて、温かなトーンのソロを展開する。
続く「ラメント」の、深夜の街を彷徨うような気分の哀切な楽想や、ラストナンバー「エイメン」のゴスペルフィーリングも最高である。
こうした懐かしの「B面名盤」であるが、CDが登場したときにすでに「A面B面が無いのがイヤ」という声があったものの、ボーナステイクや未発表テイクが大量に収められるのはそれなりに有り難いという声があがって沈静化。
そして現在、ダウンロードが主流になるにつれて、ボーナストラックの意義も薄れ、むしろベストトラックだけをダウンロードして聴けばよいことになった。
そして、「ドナルド・バードのオススメダウンロードは何?」と問われたときに、本作の旧B面の3曲が真っ先に推奨されることになるだろう。
(収録曲)
1. フュエゴ
2. バップ・ア・ループ
3. ファンキー・ママ
4. ロウ・ライフ
5. ラメント
6. エイメン
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)