10年間お笑いブームを盛り上げてきたM-1グランプリが12月26日に幕を閉じた。9回連続出場の「笑い飯」が最後に優勝を飾ったのはドラマティックでさえあった。
今回は今までにも増して全体にハイレベルな戦いとなり、特に2位となったスリムクラブは審査員泣かせだったようだ。
今回の「オートバックスM-1グランプリ2010」でスリムクラブを初めて見たという人も少なくないだろう。彼らはすでに終了した「エンタの神様」の人気が下火となりだした頃に「怪物フランチェン」のキャラで小ブレイクしたお笑いコンビである。
M-1では向かって左に立っていた、ハスキーボイスでスローに話す真栄田 賢(まえだ けん)が「エンタの神様」ではフランケンシュタインをモチーフにした「フランチェン」となり「いいよっ」と言うフレーズで笑いをとっていたのだ。相方の内間 政成(うちま まさなり)は陰の「博士の声」を担当していた。
そのスリムクラブがM-1で決勝進出して瞬く間に2位となるとは誰も想像しなかっただろう。ところが彼らの独特のスローテンポ漫才で風刺の効いたネタが、観客にも審査員にも大ウケしたのである。
M-1司会の今田耕司は「つっこみというより『説得』ですね」とその特徴を評し、審査員からは「時間が惜しくないのか?」とコメントされるほど、他の組が4分間にネタをどれだけ入れられるかに必死となる傾向と真逆の漫才だったのだ。
決勝戦では1位通過のパンクブーブー(敗者復活組)、2位の笑い飯、3位のスリムクラブの決戦となった。
審査員は中田カウス(スリムクラブ)、宮迫博之(スリムクラブ)、渡辺正行(笑い飯)、大竹一樹(笑い飯)、南原清隆(笑い飯)、松本人志(笑い飯)、島田紳助(スリムクラブ)と票は笑い飯とスリムクラブの接戦だった。
1票差で笑い飯が優勝となり審査の感想を聞かれた中田カウスは「スリムクラブには来年の活躍に期待したい」とスリムクラブの今後の可能性を示唆した。島田紳助は「笑い飯がネタを逆に持ってきていたら圧勝だった。ネタをあの順番にしたからスリムクラブにこんなに票が入った」と笑い飯の実力を高く評価したが、紳助自体、スリムクラブに入れている。
松本人志のコメント「散々迷って『スリム飯』って書こうかと思った。でも最多出場の笑い飯に勝たせたかった」には、9年間挑戦してきた笑い飯への思いが込められていた。審査員としてそうした情緒的な想いは口にしにくいものだが、それを本音で語った松本には好感が持てた。
初めてM-1の審査をした宮迫博之が言った「ボタンを押す指が震えた。『スリムクラブとかに入れていいのか?』って」というコメントは、今回の審査員たちの気持ちをよく表しているのではないだろうか。
本来漫才選手権であるM-1は最後に漫才の笑い飯が優勝したが、今大会ではスリムクラブの他にもピース、ジャルジャルといった漫才畑でない者が台頭してきたのだ。そしてこれはここ数年の傾向でもある。
ジャルジャルに対して審査員が「コントでやったら面白かった」という内容のコメントをしたように、やはり基本は漫才が求められているのだ。
そんな状況でも勝ちあがったスリムクラブに採点してきた審査員自体が戸惑うという状況が起きたのである。M-1という漫才発のイベントがお笑いの現状と合わなくなったことを実感させる幕切れでもあった。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)