お笑いコンビオードリーといえば春日俊彰の「ヘッ」、「トゥース!」などのネタがブレイクに大きく貢献したのは間違いない。しかし、ブレイクから2年近くが過ぎて相方、若林正恭の立場にも変化が出ている。
2008年のM-1グランプリで2位となったことをキッカケに人気お笑いコンビとなったオードリーは、1年間近くを春日の強力なキャラで突き進んできた。
しかし一部のファンからは、春日を際立たせる相方の若林の芸への評価は高かったのである。そんな若林は正月番組でエロキャラで迫るなどして徐々にキャラを広げつつある。
彼が形として実力を見せたのが2009年の「ザ・ドリームマッチ09 真夏の若手芸人祭り!!」だった。皮肉にもM-1 2008で1位だったNON STYLEの石田明と組んで漫才を披露して優勝したのだ。これにより世間にも若林が春日なしでも笑いがとれることが認識されたといえるだろう。
若林正恭には「歌が下手で役者は向いてない」不器用な男というイメージがある。これは テレビ「めちゃイケ」の企画番組『お笑い芸人歌がへたな王座決定戦』で音程に高低がない歌が大うけして常連となったことと、「笑っていいとも!」の『いいともドラマアカデミー』で演技の下手さを見せ付けたことによるのである。
だがその若林がドラマで熱演して感動を呼び、新たな境地を開こうとしているのだ。10月12日放送された「コレってアリですか?」は視聴者投稿をミニドラマで再現したもので芸人も出演した。
“アルバイターが見た店長の信じられない言動”、“バスガイドが体験した非常識な客”、“ファミレスのバイトが受ける先輩の仕打ちや深夜の変な客”という設定でドラマが展開するのだ。
そんな中でカラーが違う設定の再現ドラマが『拝啓15の俺へ』だった。主役は15歳で反抗期ど真ん中の中学生だ。これを詰襟学生服の若林が演じてそんな息子に手を焼きながら見守ってくれる母を宮崎美子が演じた。
その大まかな内容は、息子の彼が漫画の本を買ってくるように頼んでいたところ父親(斉藤洋介)が「母さんがこの表紙を見て、お前が好きなアイドルだっていうから」と雑誌『明星』をいっしょに買って来てくれたのだ。すると息子は「余計なことすんじゃネエよ! 俺はこんな女大嫌いなんだよ!」とその本を窓から投げ捨ててしまった。
またある時は親子3人でレストランへ食事に行くと偶然息子の同級生と会ったので母親が「いつもうちの息子が迷惑かけてごめんね」と笑顔で挨拶した。別れた後に息子に「あなたもよそのお母さんに会ったら挨拶しなさいよ」と言うとプチンときた息子が「うるせー! お前の友達じゃねえだろうが!」と1人で帰ってしまう。そんなエピソードを描いた内容だ。
どこまでも反抗する息子と、懲りずに気にかける母親の愛情との親子のすれ違いを“お笑い一切ナシ”で撮られたドラマだった。バックにはアンジェラ・アキの名曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」が効果的に使われていたのも雰囲気を盛り上げた。
宮崎美子は名女優なので当然なのだが、若林正恭がここまで熱演すると誰が想像しただろうか? スタジオで見ていた芸人や女優たちも涙をためて見入っており、舞台や俳優もこなすバナナマンの設楽統をして「腹が立ったし、泣いたし、なんだよこれ」と暗に評価していた。
さらには若林によると、撮影中にテイクが終わるとあまりの若林の熱演に宮崎美子が本気で彼の襟首をつかんで「この野郎!」と腹を立てたという。
M-1から人気に火がついた芸人でいまだそれを維持しているのはブラックマヨネーズとチュートリアル、そしてオードリーくらいなのだ。そのオードリーも春日のキャラに翳りが見え出した今、若林のこのような隠れた実力に期待するしかないのである。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)