公務員批判をする際の定番とも言えるテーマが「国と地方の二重行政」であるが、実態はそれだけに終わらない。いわゆる政令指定都市を抱える道府県においては、国、道府県、政令指定都市の三重行政により、市民が多大な迷惑を被っている例は意外と語られないので、今回取り上げてみたい。
本来、市町村はそれらを管轄する道府県の指導と財政的補助の下で、市民に密着した行政を行うのが任務である。
しかし、政令指定都市になると、財源や権限を道府県から委譲を受けるとともに、独自の行政課題を立てて遂行する権限を持つ。いわば道府県内の独立地域である。
ここで、道府県と政令指定都市が緊密な連携と役割分担の下で、住民行政を行えば良いのだが、困ったことに政令指定都市と道府県は一種のライバル関係になってしまうのである。
たとえば、障がい者の就労支援に関する条例を道府県が先に作ったとすると、内容的に大同小異の条例を政令指定都市も作る。
政令指定都市とはいえ、一応は道府県の指導下にあるから、住民はどこが同じでどこが違うのかわからない2つの条例の狭間で、右往左往する羽目になる。
ハコモノ行政についても同様だ。道府県立美術館が出来たならば、同じく政令指定都市立美術館も作る。
どちらの美術館も、同じ政令指定都市内に建つのだから、住民の文化芸術環境はさぞや充実するかと思いきや、そんなことは全然無い。
たとえば、道府県立の美術館が比較的メジャーな画家の作品を展示し、市立美術館が地元出身画家の作品を展示するという役割分担をするのなら結構なことである。
しかし、それでは市立美術館の集客が見込めないので、結局、素晴らしいのかつまらないのかよくわからない美術展が両方で開催される。
万事がこの調子なので、市民は大迷惑な上に、近年はどの地方都市も財政難で、行政サービスの質は低下する一方である。
大同小異の条例策定に要する人的リソース重複だけでも、結構なムダと言えるだろう。
ここしばらく鳴りをひそめている道州制施行議論を再開する場合には、ぜひこの状況の改善もテーマとして取り上げて欲しいものである。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)