writer : techinsight

【名盤クロニクル】大阪万博40年目に聴く歴史的電子音楽 湯浅譲二「ピアノ音楽集/テープ音楽集」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:クラシック)

2010年は日本の歴史に名を残した大阪万博EXPO70から40年目になる。
それ以前から万国博覧会においては、出展各国の先端技術が展示され、それに併せて各パビリオンで使われる音楽も、電子的手段を用いた先鋭的ものが多く発表されている。
湯浅譲二氏の作品の中でも、特にユニークな3つの電子音楽作品を収めたこのディスクを通して大阪万博の時代的空気を感じ取っていただきたく紹介させていただく。

電子音楽は、現在ではポピュラーミュージックと合体し、なんらかのエレクトロニクス機材を使って演奏される音楽を指すが、この時代の電子音楽とは、専用のスタジオで精密に音響設計された電子音をテープに録音したものを指す名称であった。

このディスクに収められた3曲の電子音楽は、それぞれオーケストラ、人声、ノイズを素材として電子的/電機的に処理したものである。

特に面白いのが、5曲目の「ヴォイセス・カミング」である。
3つのパートに別れており、第1のパートは国際電話オペレーターと通話者の会話。第2のパートは日本語の会話の中で、「えーと」とか「あの」とか「なんというか」などの、テープ音声起こしの世界ではケバと呼ばれる語間の言葉だけを抜粋編集したもの。第3のパートはアジテーション演説の編集となっており、人間の声が音楽として設計されている様子を聴くことができる。

大阪万博においては、さまざまな作曲家が数多くの電子音楽を制作し、各パビリオンで流されていた。

「人類の進歩と調和」をテーマに、さまざまなテクノロジーを展示していた1970年万博は、未来への夢や希望が満ちあふれていたイベントであった。

現在、「エレクトロニカ」という総称で呼ばれる音楽には、過激なノイズを強調したものから静謐なアンビエントまで、さまざまなものがあるが、それらのルーツとして湯浅氏の作品を堪能してみるのも、良いのではないだろうか。

(収録曲)
1. 内触覚的宇宙 〔ピアノ作品〕
2. プロジェクション・トポロジック 〔ピアノ作品〕
3. オン・ザ・キーボード 〔ピアノ作品〕
4. スペース・プロジェクションのための音楽 (Expo’70 せんい館のための) 〔テープ音楽〕
5. ヴォイセス・カミング (NHK 電子音楽スタジオ) 〔テープ音楽〕
6. ホワイト・ノイズによる<イコン> (NHK 電子音楽スタジオ) 〔テープ音楽〕
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)