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【名盤クロニクル】P・L・エマール「バッハ作曲 フーガの技法」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:クラシック)
バッハの未完の大作「フーガの技法」は、バッハ存命時に頂点を極めた対位法という作曲技法の集大成だ。
対位法とは、2つ以上の異なる旋律が独立して演奏されながら、相互の旋律が調和しているという音楽形式である。
この曲には演奏楽器が指定されていないので、どんな編成で演奏することができる。しかし、この曲の演奏において最も困難なのは、ピアノソロによる演奏であると言われる。
その難しいピアノソロ演奏に挑戦したのが、現代音楽分野の演奏で有名なピエール・ローラン・エマールである。

バッハ作品全般に言えることだが、この曲は特に、あまりにも気高く謹厳なので、良くない演奏で聴くと、教会で退屈なお説教を聞かされているような気分になることがある。

また、複数の楽器で弾かれると、この曲の旋律対位のおもしろさがぼやけてしまうこともある。

バッハの解体的なピアノ演奏で知られるグレン・グールドでさえ、この曲の演奏はオルガンを使用した。

しかし、ここでのエマールの演奏は、過剰な謹厳さを押さえ、テンポも比較的速めに弾きながら、それぞれの旋律の絡み合いをじっくり楽しめる内容になっている。

クラシック初心者は、この曲集の最初に演奏される4曲のカノンだけを何度もじっくり味わってほしい。カノンは、歌でいうところの輪唱で、同じ旋律が時間をずらして奏でられる形式だ。音楽のおもしろさが純粋に味わえる。

それに慣れたら、続く15曲のフーガをじっくり聴いてほしい。旋律と旋律が互いに自分の個性を主張しながら、仲良く調和していく様子が味わえる。

「曲のタイトルが難しくてわからない」と言って怖じ気づくひとがいるかもしれないが、気にしなくてもよい。音楽に「意味」や「理論」を求めても、何も実りはない。音そのものを虚心に味わってほしい。

(収録曲)
1. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスI
2. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスII
3. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスIII
4. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスIV
5. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスV
6. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスVI(4声、フランス様式による)
7. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスVII(4声、拡大と縮小による)
8. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスVIII(3声)
9. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスIX(4声、12度における)
10. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスX(4声、10度における)
11. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXI(4声)
12. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXII.1(4声)
13. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXII.2(4声)
14. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXIII.1(3声)
15. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXIII.2(3声)
16. フーガの技法 BWV1080 オクターヴにおけるカノン
17. フーガの技法 BWV1080 3度の対位における10度のカノン
18. フーガの技法 BWV1080 5度の対位における12度のカノン
19. フーガの技法 BWV1080 反進行における拡大カノン
20. フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥスXIV(3つの主題によるフーガ)
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)