writer : techinsight

【名盤クロニクル】あの世へ逝きそう。バーンスタイン指揮 「新世界より」

(画像提供:Amazon.co.jp)

20世紀最大の巨匠の一人である指揮者バーンスタインの残した録音はどれも個性溢れる名演、奇演、怪演などの宝庫である。
今回紹介するドボルザークの「新世界より」は、誰でも知っている第2楽章「家路」のテーマで知られる超有名曲であるが、これがバーンスタインの手にかかると、まるで彼岸への旅立ちのような深遠な楽曲に生まれ変わるのである。

この曲は、交響曲の伝統的なセオリーに従って4つの楽章から構成され、有名な「家路」の旋律が聴かれるのは第2楽章である。そしてその第2楽章の中間部は、通常なら夕陽を見ながら故郷の空を思い出してちょっとセンチな気分になるといった趣の部分である。

しかし、バーンスタインはこの箇所を信じがたいほど遅いテンポで演奏し、弦楽器のざわめきもどこかただならぬ雰囲気を漂わせている。聴いていると、まるで人生を終えようとしている人があの世への旅立ちに際して、この世への未練を切々と訴えているかのような深遠な雰囲気に変えてしまっている。

続く第3楽章は、スケルツォであるが、こっちのほうは第2楽章とは逆に信じがたいほど速いテンポでぶっ飛ばす。「新世界より」の楽章の中ではあまり重視されない部分だが、バーンスタインの演奏は、まるでミュージカルのダンスのような無茶苦茶速いテンポで表現されており、さっきまで第2楽章で彼岸を思っていたリスナーを一気に別世界へ誘ってくれる。

特徴的な2つの楽章を紹介したが、その他の楽章もバーンスタインならではの個性に溢れており、「新世界なんて・・・」とバカにしているベテラン・クラシックリスナーでこの演奏を聴いていない人は、ぜひとも耳にして欲しい。

まるで別の曲を聴いているような錯覚に陥るくらいの個性的な演奏であり、非常に素晴らしい名演である。

(収録曲)
1. 交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」 第1楽章 アダージョ-アレグロ・モルト
2. 交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」 第2楽章 ラルゴ
3. 交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」 第3楽章 スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ
4. 交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」 第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ
5. 序曲「謝肉祭」作品92
6. スラヴ舞曲第1番ハ長調 作品46-1
7. スラヴ舞曲第3番変イ長調 作品46-3
8. 交響詩「モルダウ」 (連作交響詩「わが祖国」より)
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)