10周年を迎えてすっかり国民的アニメとなった「ワンピース」。原作漫画「ONE PIECE」もいまだ連載中であるが、アニメのやや子ども向けの雰囲気と、コミックス50巻超というボリュームに腰が引けている人も多いのではないだろうか。
世は大航海時代。その幕開けは海賊王「ゴールド・ロジャー」の今わの際の一言だった。『おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ… 探してみろ』――。
小さな港村に住む少年「モンキー・D・ルフィ」。カナヅチでありながら海賊に憧れ、村に逗留している海賊の頭「赤髪のシャンクス」に自分を航海に連れて行くよう懇願している。そのさなか誤って食べた「ゴムゴムの実」。悪魔の実とも呼ばれるその力でルフィは全身がゴムとなり、一生泳げない体になってしまった。それでも『一生海から落ちない海賊になる』と明るく言い放ち、夢をあきらめることをしない。
そんなある日、ルフィはシャンクスらを馬鹿にした山賊に食ってかかり、返り討ちにあってしまう。海に蹴落とされ、すわ怪物のエサいうところでシャンクスに救われるが、その代償としてシャンクスは左腕を失ってしまった。海の厳しさとシャンクスの偉大さを改めて思い知ったルフィは、自分の力で海賊になることを決意。シャンクスから大切な麦わら帽子を譲り受ける。
10年後、ルフィはたった一人で海に出た。そうそうに出遭った件の怪物を「ゴムゴムの銃」で仕留め、高らかに宣言する。『海賊王に おれはなる!』
海賊はフィクションの世界においてかなり魅力的なモチーフである。洋上をすべる船。血湧き肉躍る戦闘。きらめく財宝。愉快きわまりない宴。想像するだけで心が弾むディテールに満ちているが、意外と海賊を描いた少年漫画は少ない。やはり暴力による搾取というイメージがあまりよろしくないのであろうか。
しかしワンピースはその部分を難なくクリアしている。ルフィらを圧倒的な悪者と戦わせることで主人公=善という少年漫画ではしかるべき構図を、ふんわりと確立しているのだ。この“ふんわり”感が絶妙であり、ガチガチの勧善懲悪ではないところがいい。ルフィは自分の本能のままに動く男であり、お子さま向けの正義のヒーローではないのだ。
ともあれ、海賊は悪であるという印象を払拭した後に残っているのは、胸躍る要素のみ。一人で航海を始めたルフィが当面の目標とするのは、仲間集めである。
航海は一人ではできない。腕の立つ船員はもちろんのこと、水先人となる航海士、船員たちの健康を支える医師や料理人、船のメンテナンスを行う技術者など、多くの仲間が必要だ。少年漫画において、仲間は不可欠な要素。そこそこの人数で、それぞれキャラが立っていることが重要である。その点でもワンピースは抜かりがない。
三刀流の使い手である剣士「ロロノア・ゾロ」、金にがめつい美少女航海士「ナミ」、口八丁で手先が器用な狙撃手「ウソップ」、女好きのコック「サンジ」と、必須の役割にキャラクター性を備えた仲間たちが続々登場する。
コミックス11巻までの“東の海(イーストブルー)”編は彼ら主要メンバーがルフィと行動をともにするまでを中心に描かれている。それぞれがまったく別の夢を持ちながら、ルフィの生き方に共感し、絆が生まれていくさまが見所だ。
彼らの旅はまだ始まったばかり。めざすは「偉大なる航路(グランドライン)」、求めるはゴールド・ロジャーの財宝「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)