writer : techinsight

【名盤クロニクル】”恐怖の大王”終末論は終わっていない。ソラリス「ノストラダムス/予言者の書」

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「1999年の7の月に空から恐怖の大王が降ってくる」という有名な終末予言が見事に外れてから、早いものでもう10年が経過してしまった。
当時はコンピューターのY2K問題などでの漠然とした社会不安とミレニアム祝賀準備が交差する奇妙な年ではあったが、その1999年にあろうことかノストラダムスをテーマにしたロックアルバムをリリースしたのが、ハンガリーのシンフォニックバンド「ソラリス」である。

「大袈裟」という用語を音楽で表現するなら、このアルバムこそはその代表にあげられるべきであろう。プログレッシブロックというジャンルの音楽はしばしばRPGに通じる壮大な世界観を表現するのが得意だが、この作品は壮大さが極限まで行ってブチ切れてしまい、世界の終末もここまで壮大なら、なかなか悪くないと思わされてしまうほどだ。

音楽的な展開は、キーボードとフルートがリードして進行するが、随所に奇妙なアレンジが施されている。クラシックのバリトン歌手の歌声、ハンガリー土俗の民謡的なかけ声、モダンキーボードに混じるレガシーシンセサイザーの荒い音、アイヌの民族楽器ムックリに似た音の使用、唐突に登場するツィンバロンや女性コーラスなど。これらが一体となって、壮大な音のドラマが「これでもか」とばかりに連続する。

1990年代は、古い音楽も新しい音楽も区別なくフラットに聴かれるのが普通になり、かつて老体と呼ばれた大御所ミュージシャンも復権し、過去の音楽もひとつの様式として再現されるようになった。

そんな90年代の終わりに相応しい、気宇壮大にして悲しくも美しい人類の終末を夢想したコンセプトアルバムである。そして、1999年の7の月は実は恐怖の大王に成長する赤子の誕生を意味するという解釈もあるそうなので、終末待望者の夢はまだ終わっていない。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)