週刊少年ジャンプの時代物といえば「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」。もはや説明の余地がないほどの名作であるが、いかんせん連載を終えて早10前。若い世代の漫画好きはひょっとしたら読んだことがないかもしれない。しかしこれを読まないのは、漫画人生の何分の一かを損していると断言する。
明治11年、幕末の英雄「人斬り抜刀斎」を名乗る辻斬りが世間を騒がせていた。流派の名を騙られたことで辻斬りを追っている神谷活心流師範代「神谷薫」は廃刀令の折、刀を差して歩く浪人を見つける。しかし彼はこの町に流れ着いたばかりの流浪人、辻斬りであるはずもなかった。
辻斬りの正体は薫の持つ道場の土地を狙う「比留間」兄弟。薫は罠にはめられすんでのところを流浪人に助けられる。実はこの流浪人こそが本物の人斬り抜刀斎「緋村剣心」であった。事件を解決した剣心は薫の勧めに従い、しばらく神谷道場にとどまることにする。
ほどなく剣心の過去を知る警察署長が神谷道場に現れる。地位ある元維新志士ばかりを狙う兇賊“黒笠”を剣心に倒してほしいというのだ。時代が変わり潰えたかに見えた人斬りがいまだ蠢いていることを知った剣心は、逆刃刀と不殺(ころさず)の誓いを胸に、再び動き出す。
はるか昔、時代劇漫画は男性のためのものだった。信と義が存分につまった漢の生きる道を暑苦しいタッチで描く、読者を選ぶジャンルであったように思う。そんな時代物に一石を投じたのがこの作品である。
和月伸宏氏の美麗でキャッチーな絵柄による剣士の生き様は、少年ジャンプの読者層を虜にした。特に女性読者からの支持は厚く、この作品をきっかけにヲタ女、歴女、腐女子などへの道を歩むことになった人は少なくはないだろう。それだけの輝きがこの作品にはあるのだ。
登場人物それぞれの魅力をここで語ることはしない。稀代のピカレスクヒーロー「志々雄真実」やら、笑顔で人を斬る「瀬田宗次郎」やら、ツンデレ師匠やら悪・即・斬やら破亜亜ッ!やらを語り始めたら夜が明けてしまう。しかしながら少年剣士「明神弥彦」については少しだけ触れておきたい。
物語前半の弥彦は剣心に助けられることで作品のヒロイズムを強調する存在であった。剣心の背を追い、強さを求め、修練の末に少しずつ成長していく姿はどこかクリリンを思わせるが、物語も佳境に入るとさらなる役割が与えられる。未来の象徴――、剣心が剣をふるってきた果ての、新しい時代の具現である。
迷いながらも新時代のためと人を斬り続ける、剣心の人斬りと流浪人との狭間に揺れ動く様がこの作品の肝であったわけだが、和月氏はその答えとして弥彦をすえた。未来を弥彦に託すことで剣心の流浪は本当の意味で終焉を迎え、物語は幕を引く。本編最終話のエピソードは見事であった。弥彦はこの作品のもう一人の主人公であるといえよう。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)