クライアントに一切のデータを置かず、全ての処理をサーバで行い、画面だけをクライアントに転送するシンクライアントは、企業のITコストの縮減のために大きな効果を発揮すると言われており、それは事実であるが、ある程度まで普及はしても主流になることはないであろう。その理由を過去の教訓に学んでみたい。
シンクライアントのメリットとデメリットはほぼ出そろっている。メリットの主なものは、管理費用の軽減やロースペックの端末でも動作することであり、デメリットはネットワークに繋がっていないと使えないことや、サーバ側に多大な経費がかかり、イニシャルコストが高くなるという点などがある。
しかし、ほとんど論じられていないにもかかわらず、大きなデメリットとして挙げられるべきなのは、コンピュータを私的な好みに構成することが難しいということだ。
業務を便利にするツールはたくさんのものが出そろっており、ユーザーは自分が最も使いやすいツールを導入して、仕事を快適にするという自由が、シンクライアントには無い。
さらに、大きなプロセッサパワーを必要とする作業のためには、ローカル側に相応の性能の端末を置いておく必要があるのだが、これもシンクライアントでは難しい。
かつて大型コンピュータを利用していた頃、端末はまさしくシンクライアントであった。全員が一斉に決められた機能を業務の範囲内で使う。
非常に理想的ではあるが、この状況が「テクノストレス」と呼ばれる症状を引き起こした。
コンピュータをカスタマイズし、自分好みの環境を構築し、便利なツールから遊び用のソフトまで自在に使えるという、現在のパソコン端末がテクノストレスの軽減に役だったという功績は大きい。
経費削減という錦の御旗は強力だが、ふたたびシンクライアントに移行するならば、従業員がテクノストレスを抱えだす可能性が大きい。
経費削減や管理効率向上は重要だが、コンピュータを自分の私的な好みに構成できないストレスは思いの外大きい。導入に当たっては、メリット・デメリットの比較考量と併せて、このことを検討すべきであろう。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)