writer : techinsight

【3分でわかる】ボーイズ・オン・ザ・ラン

小学館が発行する週刊漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』で2005年から2008年まで連載された、花沢健吾による青年漫画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。オナニーばかりしているモテない27歳の独身サラリーマンが、失恋や決闘を経験してボクシングに目覚めるという奇想天外のストーリーと、主人公の古風な人間臭さが絶妙にマッチして若者からカルトな人気を得ている作品。単行本は全10巻で完結となっているが、2010年春、実写映画が公開される予定だ。

宝島社発行の『このマンガがすごい!2007・オトコ版』では7位にランクインし、人気情報バラエティ番組で特集が組まれるほどの人気作品『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。決してカッコイイとは言えない主人公・田西敏行(たにし としゆき)は、27歳、独身でガチャガチャを取り扱う会社に勤務している。彼女は無く家族と同居、妄想は激しいが異性との交際経験を持たない、いわゆる「素人童貞」。会社の女子社員・植村ちはるに一途な思いを寄せている。

この植村ちはるというのが何を考えているのかわからない女の子で、清純な顔をして田西とホテルで一緒にフロに入るが体を許さず(田西が自分で体を縛るのだけど。)その後あっさり田西の知り合いでライバル会社のスケコマシ男と付き合ってしまう。そして物語後半はかなりヘビーな女性に変貌し、大いに主人公田西の心をかき乱す。本人にその気は無いのだが、聖女とも妖婦ともとれる存在。男性向けの漫画ではめずらしい女性キャラクターだ。

一人の女性との恋を通して成長する男性は多いのであろうが、この漫画にはもう一人、主人公の人生を左右する女性が登場する。彼女の存在が無味で単調なハズの田西の人生を大きく変えるのだが、冒頭より赤いジャージの女として存在をチラつかせ、後半の展開に繋げる描き方はさすが、人気作品として納得する。ボクシングや決闘を盛り込んだスピード感のある展開とは裏腹に、登場人物たちの心の溝はなかなか埋まらず、恋も進展しなければ、仲たがいも激しい。

そういった精神面で弱く不器用な若者をリアルに描く作者の花沢健吾(はなざわ けんご)は1974年生まれ。青森県からの地方出身者だ。いわゆるロスト・ジェネレーションと呼ばれるこの世代の芸術家は、就職難で社会の歯車にさえなれなかった同世代の若者の孤独感を表現するのが上手い。「負け組」という言葉を最初に意識しはじめたのはこの世代だ。花沢はモテない純情男の田西が、恋に悶絶し格闘に目覚める姿を描いたことで、自ら考える「女尊男卑」という思想と女性優位の恋愛事情を皮肉っている。ロスジェネ世代のやり場のない怒りの爆発のような『ボーイズ・オン・ザラン』。このマンガの実写映画を監督するのは、やはり1975年生まれ北海道出身の劇作家、三浦大輔。彼の主宰するポツドールはあまたある数の劇団から飛びぬけた活動で人気を勝ち取っている。オナニー、セックス、暴力など、古代からある人間の営みをありのままに表現する才能は非凡だ。

非凡なクリエーターが映像化する『ボーイズ・オン・ザラン』。きっと漫画とは違った魅力を発揮するに違いない。主人公・田西を演じるのは、中高生を中心にカリスマ的人気を誇るロックバンド銀杏BOYZの峯田和伸。優柔不断でけんかに弱く、モテない田西にはちょっとイメージが違うような気がするが、最近も有名人でありながら少々かっこ悪いバーチャル愛を自身のブログでつづる、せつない峯田。上手く田西を演じるに違いない。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)